時間に生きる 9
作者のエンデは、もしかしたら、浦島太郎の物語を知っていたのかもしれないと思えるような描写です。
いずれにしろ、この日常の世界から脱出して、時間を越えたところに行くには、浦島のカメの道案内がいるようです。
早く前進することをやめ、しまいには時間が逆行するので、うしろ向きに歩かないとこの不思議な世界には入れません。
そして、カメこそ超時間的な存在で、この世界ともう一つの別の世界との問を行ったり来たりできる唯一の生物であるらしいのです。
モモがこの竜宮城で出会ったのは、乙姫ならぬ老賢人で、時を司る永遠の人でした。
マイスター・ゼクンドゥス・ミスティウス・ホラ(マイスターは賢者、ゼクンドゥスは秒、ミスティウスは分、ホラは時間のこと)という名でよばれています。
若い青年である浦島が深い海の底のような無意識の領域の奥で出会うのが、美しい女性であるなら、少女モモの相手は、父親のイメージにも似た老賢人であるのが一番ふさわしいかもしれません。
彼は、『指輪物語』で妖精たちがしたう西の海の彼方のお后さまのように、神格化された父親像といえるでしょう。
そして、その役割は秩序と規律と時間の貴重さを教える人です。